循環系④:脊椎動物の循環系2
この記事では
「循環系③:脊椎動物の循環系1」で扱った
脊椎動物の血液に続き
以下の項目について
解説しています。
目次
1:脊椎動物の血管の構造
脊椎動物の血管には共通して
内皮(ないひ)という
1層の細胞層が見られます。
内皮は
動脈と静脈においては
血管の壁の内側(血液に接する側)を
構成しており
毛細血管においては
血管の壁そのものを
構成しています。
動脈、静脈、毛細血管を
輪切りにした断面図を
描くと下図のようになります。
動脈と静脈の構造
動脈では
内皮の外側に
厚い筋肉の層があります。
一方
静脈では
内皮の外側に
薄い筋肉の層があります(下図)。
また、静脈には
弁(べん)という構造が
みられます。
静脈を、弁のある部位で
下図のように切った図を
描いてみましょう(下図)。
筋肉の層と弁の働きについて
詳しく説明しましょう。
流れる血液が血管の壁を
押す圧力のことを
血圧(けつあつ)といいます。
心臓から押し出された血液が
勢いよく流れる動脈では
血圧が高くなります。
例えば
動脈が体の表面近くを
通っている手首や首筋に指を
押し当てると
心臓に似た
トクトクという
動きが感じられますね。
(下図の赤い点線枠内)
このような動きが
感じられるのは
心臓から押し出された
血液によって
動脈が内側から強く
押されているから
なのです。
動脈は
厚い筋肉の層を
もつことで
高い血圧に
耐えられるように
になっているのです。
動脈の血液は
組織の毛細血管を経ると
血液の流れる勢いが
弱くなります。
例えば
手の甲の表面に
見られる
青緑がかった血管(静脈)を
見てみましょう。
手の甲の静脈は
ひじを曲げて
手を上に挙げていると
目立ちませんが(下図)
腕の力を抜いて
手を下にダラッとたらすと
太く目立ちます(下図)。
手を下にたらしている時は
静脈内の血液の流れが滞り
血液が溜まって静脈が太くなり
目立つのです。
このように
静脈では
血液の流れる勢いが
弱いため
静脈の血圧は
動脈の血圧に比べて
低くなり
静脈の筋肉の層も
動脈に比べて薄く
なっているのです。
また
血圧が低い静脈では
血液が逆流しやすく
なります。
もしも
血液が逆流しそうに
なった時は
弁がタイミングよく
閉じることで
血液の逆流を
防止するのです(下図)。
毛細血管の構造
毛細血管は
内皮のみで
できています(下図)。
毛細血管の内皮では
内皮を構成する
細胞同士の間に隙間があり
液体が毛細血管の内外へ
出入り出来るように
なっているのです(下図)。
以上
脊椎動物の血管の
構造について解説しました。
次に
リンパ管について
解説しましょう。
2:リンパ管の配置と構造
リンパ管の体内での配置と
リンパ管の構造について
ヒトの体を取り上げて
解説しましょう。
ヒトの体を
・心臓、血管
・リンパ管
・肺
・頭部、手、その他の体の組織
に分けた模式図を
使って説明します。
頭部と手を
その他の体の組織から
分ける理由は
血管とリンパ管との
関係を明確に
描くためです。
心臓から出た血液の一部は
腕の血管を通った後
鎖骨下静脈(さこつかじょうみゃく)
とよばれる
静脈を通ります(下図)。
その後
頭部からの血液と合流し
大静脈を通って
心臓へ戻ります(下図)。
では
リンパ管に注目
してみましょう。
リンパ管は
特定の組織から出て
最終的に
鎖骨下静脈へ
つながります(下図)。
リンパ管の
組織側の末端は
閉じた構造をしており
どこにも
つながっていません(下図)。
リンパ管の壁は
1層の細胞層で
できています。
細胞間に隙間があり
液体がリンパ管内へ
入れるようになっています。
また
逆流を防ぐ弁が
みられます(下図)。
リンパ管の所々には
リンパ節(せつ)とよばれる
ふくらみが見られます(下図)。
指で間接的に触れる
ことのできるリンパ節の例を
1つ挙げましょう。
アゴ下の
柔らかい部位を
指で触ると
コリコリした
部分がいくつか
見つかります。
※下図の点線枠内の位置
この
コリコリした部分は
体表面の近くにある
リンパ節なのです。
リンパ節内には
多数の白血球が
集まっています。
このため、リンパ液が
リンパ節内を流れる時に
リンパ液中の細菌などが
取り除かれるのです。
さて、ここまで
血管とリンパ管について
解説してきました。
次に
血液、組織液、リンパ液の
循環を説明しましょう。
3:血液、組織液、リンパ液の循環
心臓から出た血液は
動脈を経て
組織中の毛細血管を通ります。
この時、血しょうの一部が
毛細血管の壁からしみ出て
組織の細胞を浸す
組織液となります。
この様子を模式図で
描いてみましょう(下図)。
※点線矢印:しみ出す血しょう
組織液は
組織の細胞間を流れます。
この時に
組織液と細胞との間で
物質のやり取りが
行われるのです(下図)。
その後
組織液の大部分は
毛細血管に戻って
再び血液となります(下図)。
一方
組織液の一部は
リンパ管に入って
リンパ液となるのです(下図)。
リンパ液は
鎖骨下静脈へ向けて
リンパ管内を流れ
やがて
鎖骨下静脈に入って
血液となります(下図:薄黄色矢印)。
このように
・血液
・組織液
・リンパ液
は互いに
つながり合っており
心臓が血液を
循環させることで
組織液、リンパ液を
含めた体液全体が
循環するのです。
さて、ここまで
脊椎動物の体液が
循環する仕組みについて
解説してきました。
最後に
体液の循環に悪影響を
及ぼしかねない
ある出来事と
その出来事に
対処する仕組みについて
解説しましょう。
4:血液凝固(けつえきぎょうこ)
生活をしていると
体液の循環に悪影響を及ぼす
ような出来事が起こります。
その出来事の1つは
出血です。
出血は
体液量の減少や
体内への細菌などの侵入に
つながります。
体には
出血を止めるための
仕組みが備わっています。
ケガをして出血しても
やがて出血が止まり
傷口にかさぶたが出来ます。
この時、単に
血が乾燥して固まることで
出血が止まるわけではなく
出血を止めるための
積極的なしくみが
血管内で働いているのです。
出血を止める
仕組みのことを
血液凝固(けつえきぎょうこ※)
といいます。
※血液凝固反応ともいう。
血液凝固によって
過剰な出血を防ぐことができ
体液量の減少と
体内への細菌などの
侵入を防ぐことができます。
その結果
細胞にとって適切な
体内環境を維持することが
出来るのです。
血液凝固の過程
血液凝固には
凝固因子(ぎょうこいんし※)と
総称される物質が関与します。
※血液凝固因子ともいう
凝固因子は
・血小板が放出する凝固因子
・血しょう中に含まれる凝固因子
の2つに分けられます。
血管の壁が傷つき
出血したとしましょう(下図)。
まず
血管の傷口に
血小板が集まります(下図)。
次に
血小板が凝固因子を
放出します(下図:点線矢印)。
すると
血小板が放出した凝固因子と
血しょう中に含まれている
凝固因子が一緒に働き
フィブリン
とよばれる
繊維状のタンパク質が
作られるのです。
そして
多数のフィブリンが
網状につながります(下図)。
この網に
血液中を流れる血球が
からめ取られます。
フィブリンの網と
からめ取られた血球の塊は
血ぺい(けっぺい)
とよばれ
この血ぺいが
血管の傷口をふさぎ
出血が止まるのです(下図)。
なお
かさぶたというのは
出血によって血液が
体の表面に出た場合に
血液凝固で生じた
血ぺいの一部が
空気に触れて乾燥し
固まったものです。
血清(けっせい)
実験的に
血液を体外に取り出し
試験管の中に入れて
放置しておくと
血液凝固が起こって
血液が上下の2層に
分かれます(下図)。
下層には
血液凝固で生じた血ぺいが
沈殿します。
上澄みには
黄色みのある液体が
残ります。
血液凝固の結果
分離した
黄色みのある液体を
血清(けっせい)
とよびます(下図)。
血清は
血しょうの成分から
凝固因子を除いた残りの
成分からなります(下図)。
5:線溶(せんよう)
血液凝固でつくられた
血ぺいによって止血された後
血管の傷は修復されます。
傷が修復されれば
血ぺいは不要になり
残っていても
血液の流れを妨げる
ばかりです。
体内には
不要になった血ぺいを
溶かすしくみがあります。
血ぺいを溶かす
仕組みのことを
線溶(せんよう※)
といいます。
※フィブリン溶解(ようかい)
繊溶、繊維素溶解(せんいそようかい)ともいう
線溶の過程では
傷が修復された部分にある
血ぺいを構成している
フィブリンが分解されます(下図)。
そして
フィブリンに
からめ取られていた血球が
血液の流れよって分散し
血ぺいが除去
されるのです(下図)。
このように
血ぺいをつくる血液凝固と
血ぺいを溶かす線溶という
正反対の結果を
もたらす2つの仕組みが
適切に働くことで
適切な体内環境が
維持されるのです。