光合成速度と呼吸速度のグラフ
『この記事について』
入試問題でよく出題される
以下のグラフについて解説します。
また、以下の用語について、
光合成速度のグラフの視点から
やさしく解説しています。
・光補償点(ひかりほしょうてん)
・光飽和点(ひかりほうわてん)
・陽生植物、陰生植物、陽樹、陰樹
・陽葉、陰葉
光補償点と光飽和点は、
上記のグラフをマスターする上での
キーワードです。
また、陽樹と陰樹の特徴を知っておくことは、
入試の大きなテーマの1つである
遷移(せんい)という現象を理解する上で重要です。
目次
目次
1:光合成速度と呼吸速度
1-1. 光合成速度、呼吸速度とは
単位時間当たりの光合成量のことを
光合成速度といいます。
また、
単位時間当たりの呼吸量のことを
呼吸速度といいます。
植物は、光合成によって
有機物を生産し、
その有機物を
呼吸(細胞呼吸)によって
消費することで生活しています。
このため、植物は、
光が適度に当たり、
光合成速度が呼吸速度を上回る環境では
生育することができ、
光が少なすぎて、
光合成速度が呼吸速度を下回る環境では、
生育することが出来ません。
この記事で取り上げる以下のグラフは、
特定の植物を様々な光の強さのもとにおき、
光合成速度と呼吸速度を測定して、
その結果を描いたものです。
そのため、このグラフには、
測定の対象となった植物の
光の強さと生育の関係が表れています。
1-2. 呼吸速度
植物は、光の有無に関係なく、
呼吸によって空気中へ
二酸化炭素(CO2)を放出しています。
植物は、光が当たる環境では、
光合成による二酸化炭素の吸収と、
呼吸による二酸化炭素の放出を同時に
行っていますが、
暗黒下にある時は、
光合成を行いません(下図)。
このため、呼吸速度は、
植物を暗黒下に置いた際の、
単位時間あたりの
二酸化炭素の放出量、
言い換えれば、
二酸化炭素の放出速度
として、
測定することが出来ます。
測定結果を、
・横軸:光の強さ
・縦軸:二酸化炭素の吸収速度
に設定した図で
描いてみましょう(下図:赤点)。
放出速度は、吸収速度に置き換えると
”マイナス”になります。
生物基礎の教科書では、
光の有無によらず “呼吸速度は、一定”
であると仮定します。
この仮定に基づき、
呼吸速度の大きさが分かりやすいように、
下図のように、点線を引いておきましょう。
光の強さによらず、
下図中の矢印で示される幅が
呼吸速度を表しています。
1-3. 光合成速度
植物は、光が当たる環境では、
光合成による二酸化炭素の吸収と、
呼吸による二酸化炭素の放出を同時に
行っています(下図)。
このため、光合成による
二酸化炭素の吸収量だけを
直接測定することは出来ません。
光合成速度を知りたい時は、
まず、植物に光を当てた時の、
二酸化炭素の放出速度・吸収速度を測定します。
この測定値は、
呼吸による二酸化炭素の放出分が
含まれています。
そこで、この測定値と、
暗黒下で測定した呼吸速度を使って、
計算によって光合成速度を算出するのです。
具体的な計算式は、
「1-7:光合成速度の計算式」で解説します。
ここでは、計算結果をもとに描いた
グラフの解説をしましょう。
特定の植物に様々な強さの光を当てて、
二酸化炭素の放出速度・吸収速度を測定して
グラフを描くと、下図赤線のようになります。
下図中の矢印で示される幅が、
光合成速度を表します。
※:例として矢印を2か所に書いてある。
1-4. 光補償点
光の強さが、
下図の点線矢印のような
弱い時には、呼吸速度が光合成速度を上回るため、
二酸化炭素の吸収速度は
マイナスになっています。
光が強くなっていくと、やがて、
光合成速度と呼吸速度が等しくなって、
二酸化炭素の吸収速度がゼロになります(下図)。
光合成速度と呼吸速度が
等しくなるときの光の強さ
のことを、
光補償点(ひかりほしょうてん)
といいます(下図)。
1-5. 光飽和点
光の強さ(下図点線矢印)が、
光補償点よりも強くなると、
光合成速度が呼吸速度を上回り、
二酸化炭素の吸収速度が
プラスになります(下図)。
ある程度の光の強さになるまでは、
光が強くなるにつれて光合成速度が増加し、
二酸化炭素の吸収速度が増加します(下図)。
しかし、
ある光の強さに達すると、
光合成速度の増加が頭打ちとなり、
それ以上に光を強くしても
光合成速度は増加しなくなるのです(下図)。
光合成速度の増加が
止まった時の光の強さ
のことを、
光飽和点(ひかりほうわてん)
といいます(下図)。
1-6. 見かけの光合成速度
光の強さが光補償点以上である時の、
二酸化炭素の吸収速度のことを、
見かけの光合成速度
といいます(下図)。
※:光補償点以下では、見かけの光合成速度とは言わない。
上図、✖印。
1-7. 光合成速度の計算式
グラフと対応させて理解しましょう。光の強さが光補償点以上の場合の
計算式を押さえてきましょう。
・光合成速度
・呼吸速度
・測定された二酸化炭素の吸収量(見かけの光合成速度)
について、以下の式が成立します。
光合成速度 = 呼吸速度 + 見かけの光合成速度
グラフで見ると、各値は
下図の矢印で示される幅で表現され、
上式が成立することが分かります。
2:陽生植物と陰生植物のグラフの比較
陸上の植物は、
生育場所の光の当たり具合を
視点に分けた場合、
・陽生植物:光の強い場所に生育する植物
・陰生植物:光の弱い場所でも生育できる植物
に分けられます。
陽生植物の分かりやすい例として、
イネがあります。
イネは、ふつう、
直射日光がよく当たる田んぼで
栽培されています(下図)。
日陰になる場所でイネを栽培しても、
育ちが悪く、稲の実も、ほとんど付きません。
陰生植物の例としては、
ゼニゴケなどがあります(下図)。
常に日陰になっている
地面の上に生育しています。
一般に、
光の強い場所では、
陰生植物よりも陽生植物のほうが、
より良く成長し、
光の弱い場所では、
陽生植物よりも陰生植物のほうが、
より良く成長します。
その理由を、
光合成速度と呼吸速度の視点で
理解しましょう。
まずは、
陽生植物と陰生植物の
典型的な光合成速度のグラフを
見てみましょう(下図)。
陽生植物と陰生植物を比較すると、
以下のような違いが見られます。
①
陽生植物は、陰生植物に比べて
光飽和点が高く、強光下での
見かけの光合成速度が大きい。
陽生植物は、光飽和点が高く、
光合成速度が、より強い光になるまで
頭打ちにならずに増していきます(下図)。
その結果、強光下での
見かけの光合成速度が
陰生植物よりも大きくなるのです(下図)。
植物は、光合成で作った有機物のうち、
呼吸で消費されなかった分を材料にして
体を作っていくので、
見かけの光合成速度が大きいほど、
より良く成長することが出来ます。
このため、陽生植物は、
強い光があたる場所では、
陰生植物に比べて、より良く
成長することが出来るのです。
②
陽生植物は、陰生植物に比べて
呼吸速度が大きく、光補償点が高い。
陽生植物は、呼吸速度が大きく、
より光が強くならないと
光合成速度が呼吸速度に達しないため、
光補償点が高くなります(下図)。
下図矢印の光の強さでは、
陰生植物の光補償点は超えていますが、
陽生植物の光補償点は、まだ超えていません。
このような光の強さでは、
陰生植物は生育できても、
陽生植物は生育できないのです。
また、下図矢印の光の強さでは、
陽生植物の光補償点も超えていますが、
見かけの光合成速度は、
陰生植物のほうが上回っています。
このような光の強さでは、
陰生植物も陽生植物も生育できますが、
陰生植物のほうが、より良く成長できるのです。
このように、
①
陽生植物:
光飽和点が高く、見かけの光合成速度が大きい
陰生植物:
光飽和点が低く、見かけの光合成速度が小さい
という特徴があることで、
強い光の下では、
陽生植物のほうが、より良く成長し、
②
陽生植物:
呼吸速度が大きく、光補償点が高い
陰生植物:
呼吸速度が小さく、光補償点が低い
という特徴があることで、
弱い光のもとでは、
陰生植物のほうが、より良く成長するのです。
さて、これでグラフの説明は
終わりです。
この後は、
陽樹と陰樹、陽葉と陰葉の解説を
簡単に行いましょう。
3:陽樹と陰樹(光合成速度のグラフの視点から)
陽生植物の特徴を示す樹木
のことを
陽樹(ようじゅ)
と言います。
代表的な陽樹として、
クロマツ、アカマツを
押さえておきましょう。
これらのマツは、
日本では庭木などとして
植えられることも多く、
その際は、普通、直射日光が
よく当たる場所に植えられます。
一方で、
芽生えや幼木の時に
陰生植物の特徴を示す樹木
のことを
陰樹(いんじゅ)
と言います。
陰樹の芽生えや幼木は、ふつう、
まわりの樹木などによって日陰となった場所で
成長していきますが、
樹高が高くなる陰樹の場合、
やがて、日陰を作っていた樹木などよりも
高く成長して、葉に強い光が当たるようになります。
すると、今度は、
陽生植物と似た特徴を示す
ようになるのです。
樹高が高くなる陰樹の代表例として
スダジイを押さえておきましょう。
スダジイの具体的な説明は、
「バイオームの覚え方」のスダジイを参照。
4:陽葉と陰葉(光合成速度のグラフの視点から)
1本の木についている葉は
、
・陽葉(ようよう):
光が良く当たる所についている葉
・陰葉(いんよう):
光があまり当たらない所についている葉
に分けられます。
光合成速度と呼吸速度について、
陽葉は、陽生植物と似た特徴をもち、
陰葉は、陰生植物と似た特徴をもちます。