『生物基礎』腎臓⑥:グルコース排出量のグラフ
『この記事について』
入試までに一度は解いておくべき、
以下のグラフに関する問題を扱います。
このグラフは、入試では、
腎臓分野の計算問題の題材として
よく用いられています。
問題を解く前提として、
腎臓の基本的な仕組み(ろ過、再吸収)について
押さえている必要があります。
少し怪しいなと感じる場合は、
まず、「基本事項」を確認してから
取り掛かりましょう。
目次
問題
ヒトでは、血液中のグルコースは、
糸球体でろ過された後、腎細管で再吸収される。
血液中のグルコース濃度(血糖値)が
正常であれば、原尿中のグルコースは
すべて再吸収されて、尿中には排出されない。
ところが、
再吸収の能力には限度があり、
ある程度以上に血糖値が高まると、
再吸収しきれないグルコースが
尿中に排出されるようになる。
実験的に血糖値を上昇させて、
・グルコースのろ過量(mg/分)と
血糖値(mg/100mL)との関係
・尿中へのグルコースの排出量(mg/分)と
血糖値(mg/100mL)との関係
を調べた結果をグラフ化すると、
以下の図のようになった。
この図をもとにして、
問いに答えなさい。
①尿中へのグルコースの排出量を示すグラフは、
図中のAとBのどちらであるか答えなさい。
※:この問題を間違えると、以降の問題も解けないので、
先に「①の解答」をチェックしましょう。
②血糖値が100 mg/100mL の時の
グルコースのろ過量は、約何 mg/分かを、
グラフから読み取って答えなさい。
③グルコースのろ過量を「ろ過量」、
尿中へのグルコースの排出量を「排出量」と書くとき、
グルコースの再吸収量を表す式を
以下から1つ選び記号で答えなさい。
あ: ろ過量 + 排出量
い: ろ過量 ー 排出量
う: 排出量 - ろ過量
④グルコースの再吸収量は
1分間当たりで最大何 mgかを、
グラフから読み取って答えなさい。
⑤グルコースの再吸収量(mg/分)と
血糖値(mg/100mL)の関係を表すグラフを
以下の図に書き込みなさい。
⑥グラフAとグラフBに基づいて、
1分間あたりで作られる原尿量(mL)を求めなさい。
①の解答
①尿中へのグルコースの排出量を示すグラフは、
図中のAとBのどちらであるか答えなさい。
解答:B
解説:
問題文にあるように、
ある程度以上に血糖値が高まると
尿中にグルコースが排出される。
逆に、ある程度までは血糖値が高まっても
尿中にグルコースは排出されない。
このことをグラフとして
表しているのは、Bである。
②以降の解答
②血糖値が100 mg/100mL の時の、
グルコースのろ過量は、約何 mg/分かを、
グラフから読み取って答えなさい。
解答:約120 mg/分
(120~115 の間なら正解とする)
解説:下図を参照
③糸球体でのグルコースのろ過量を「ろ過量」、
尿中へのグルコースの排出量を「排出量」と書くとき、
グルコースの再吸収量を表す式はどれか。
解答: い (ろ過量 ー 排出量)
解説:
ろ過と再吸収の仕組み通りに考えると、
ろ過された量のうち、再吸収された量を引いた残りが
排出量となる(下の式)。
排出量 = ろ過量 - 再吸収量
これを変形すれば、
再吸収量 = ろ過量 ー 排出量
となる。
④グルコースの再吸収量は
1分間当たりで最大何 mgかを、
グラフから読み取って答えなさい。
解答:300 mg
解説:
再吸収量 = ろ過量 ー 排出量
という関係を図で示すと、
ろ過量のグラフと排出量のグラフの差
(下図中の矢印の部分)が再吸収量を
示すことになる。
よって、
ろ過量のグラフと排出量のグラフの差
(矢印の長さ)が最大となる部分を読み取ればよい。
この問題のグラフでは、
血糖値が約250 mg/100mL以上になると
排出量のグラフが
ろ過量のグラフと平行になり、
右上がりに増えていく(下図赤い太線部)。
つまり、血糖値が約250 mg/100mLの時点で
再吸収量は最大となり、それ以上の血糖値でも
再吸収量の最大量は変わらない。
よって、
2つのグラフが平行になっている
範囲内の、読み取りやすい部分で
再吸収量を読み取ればよい(下図)。
※:上図では、例として2か所に
矢印を引いているが、どちらで読み
取っても解答は同じである。
なお、厳密には、
再吸収量の最大量に達していなくても、
再吸収量の最大量に近づくと、
徐々に再吸収しきれないグルコースが増えて、
尿中にグルコースが排出され始める。
これをグラフ化すると、
以下のようになる(下図矢印部分)。
このようなグラフであっても、
排出量のグラフとろ過量のグラフが
平行になっている範囲で再吸収量を
読みることに変わりはない(下図)。
⑤グルコースの再吸収量(mg/分)と
血糖値(mg/100mL)の関係を表すグラフを
以下の図に書き込みなさい。
解答:下図赤の太線
解説:
血糖値が約250 mg/100mLまでは、
排出量は0なので、
再吸収量(mg/分)=ろ過量(mg/分)である(下図)。
血糖値が約250 mg/100mL以上では、
④で求めたように、
再吸収量(mg/分)=300 mg/分(最大量)となり、
これを描くと下図のようになる。
なお、下図のような厳密なグラフ(④の解説参照)の場合、
曲線部は、対称になるように描いておこう(下図矢印)。
⑥グラフAとグラフBに基づいて、
1分間あたりで作られる原尿量(mL)を求めなさい。
解答:120mL
なお、健常者の場合、
1分間あたりで作られる原尿量は
約120~125mLである。
この数字は覚えておくと、
選択肢問題の場合は、
計算方法に気付けなくても
知識で解ける”場合も”ある。
解説:
結論から言うと、
1分間あたりで作られる原尿量(mL)
=1分間の ろ過量(mg) ÷ 血糖値(mg/100mL)
で求めることが出来る。
なぜ、そうなるのかを
理解しておこう。
まず、原尿量に関連する
情報を探してみる。
ろ過される物質の濃度は、
血液(血しょう)中の濃度 = 原尿中の濃度
なので、
血糖値 = X mg/100mL とすると、
原尿中のグルコース濃度 = X mg/100mL
となる。
また、1分間の
グルコースの ろ過量 = Y mg
とすると、
1分間に作られる原尿中に
Y mgのグルコースが含まれる
と言うことができる。
求めたい、1分間あたりで作られる
原尿量をZ(mL)とおくと、
以下のようにまとめられる。
・原尿中のグルコース濃度 = X mg/100mL
・1分間あたりの原尿に含まれるグルコース量 = Y(mg)
・1分間たりの原尿量 = Z(mL)
原尿中のグルコース量
= 原尿量 × 原尿中のグルコース濃度
なので、
Y(mg) = Z(mL) × X(mg/100mL)
が成り立つ。
これを変形すると、
Z(mL) = Y(mg) ÷ X(mg/100mL)
となり、
1分間あたりで作られる原尿量(mL)
=1分間の ろ過量(mg) ÷ 血糖値(mg/100mL)
となる。
ろ過量と血糖値について、
読み取りやすい部分を見ると、
血糖値が500 mg/100mLの時、
グルコースのろ過量が600 mg/分である(下図)。
これらの値を
上の式に当てはめると、
1分間あたりで作られる原尿量(mL)
= 600(mg) ÷ 500(mg/100mL)
= 120mL
となる。