『生物基礎』胎児への酸素供給
『この記事について』
この記事で解説する
母体から胎児への酸素供給の内容は、
生物基礎の教科書レベルを少し超えるものの、
大学の入試問題では過去に出題例が多くあり、
共通テストにおいても、
応用問題として出題されたとしても
おかしくはない内容です。
共通テストで出題される場合、
胎児への酸素供給に関する知識が無くても、
考えれば解けるような問題設定がされると
予想されます。
ですが、1分でも貴重なテスト時間。
今回のテーマのように、
過去の大学入試問題での出題例が多いものは、
本番で初対面となるよりも、
あらかじめ知識に触れておくのが
良いでしょう。
なお、
胎児への酸素供給は、
生物基礎の範囲内である
ヘモグロビンの酸素解離曲線の
発展的な内容です。
酸素解離曲線って何だっけ?
という人は、まず、
目次
1:母体から胎児への酸素供給
ヒトの胎児は、子宮内で、
・胎盤(たいばん)
・へその緒
という部位を介して
母体から酸素を受け取っています。
胎盤内には、母体の血液に満たされた部位があり、
そこを胎児の血液が流れる血管が通っています。
胎児の血液と母体の血液は、
血管の壁によって
隔てられているのです(下図)。
母体の血液が、胎児の体内へ流れていく
わけではありません。
母体側では、
母体の血液中のヘモグロビンが
肺で酸素と結合して酸素ヘモグロビンとなります。
酸素ヘモグロビンの一部は、胎盤へと運ばれ、
そこで酸素を解離します(下図)。
この酸素は、
母体と胎児の血液を隔てる血管の壁を通って
胎児側の血液中に入ります。
そして、胎児のヘモグロビンと結合し、
血流によって胎児の体内へと
運ばれるのです(下図)。
このように、胎盤内で
母体の酸素ヘモグロビンが酸素を解離し、
胎児のヘモグロビンが酸素と結合することで
母体から胎児への
酸素の供給が行われるのです。
母体のヘモグロビンと胎児のヘモグロビンが
胎盤内という同じ環境下で異なる働きをするのは、
母体のヘモグロビンと胎児のヘモグロビンの
性質の違いによります。
2:胎児のヘモグロビン
2-1. 胎児のヘモグロビンの性質
血液の二酸化炭素濃度というのは、
ある体積の血液中に含まれる
二酸化炭素の量のことです。
血液の二酸化炭素濃度が同じ場合、
胎児のヘモグロビンは
母体(成人)のヘモグロビンと比べて、
より酸素と結合しやすい
という性質があります。
胎盤内を流れる
母体の血液と胎児の血液は、
二酸化炭素濃度がほぼ同じです。
このため、胎児のヘモグロビンは、
胎盤の中で母体の酸素ヘモグロビンが
解離した酸素と結合することが出来るのです。
2-2. 胎児のヘモグロビンの酸素解離曲線
実験的に、
胎児のヘモグロビンと母体のヘモグロビンを
同じ二酸化炭素濃度のもと置いたとしましょう。
そして、酸素濃度だけを変化させて
酸素ヘモグロビンの割合を測定し、
結果をグラフ化すると、
以下のような
酸素解離曲線が描かれます(図)。
胎児のヘモグロビンの酸素解離曲線は、
母体のヘモグロビンの酸素解離曲線よりも
上側に位置しています。
同じ酸素濃度で比べると、
胎児のヘモグロビンのほうが、
母体のヘモグロビンに比べて
酸素ヘモグロビンの割合が高く、
より酸素と結合しやすい性質を持つ
ということが確認できます。
「ヘモグロビンの酸素解離曲線:見方編」で
解説した以下のグラフと混同しないように
しましょう。
見方編で解説した上のグラフは、
“成人のヘモグロビン”の、
肺胞の二酸化炭素濃度での酸素解離曲線と
組織の二酸化炭素濃度での酸素解離曲線が
描かれています。
曲線が2本あるのは、
2つの異なる二酸化炭素濃度での
酸素解離曲線が描いてあるからです。
一方、この記事で解説している
以下のグラフは、
胎盤の二酸化炭素濃度での、
”成人のヘモグロビン”の酸素解離曲線と
”胎児のヘモグロビン”の酸素解離曲線が
描かれているのです。
曲線が2本あるのは、
2つの異なる性質をもつヘモグロビンの
酸素解離曲線が描いてあるからなのです。
3:まとめ
①母体から胎児への酸素供給は、
胎盤で行われる。
②血液の二酸化炭素濃度が同じ場合、
胎児のヘモグロビンのほうが
母体のヘモグロビンに比べて酸素と結合しやすい。
③胎児のヘモグロビンの酸素解離曲線は、
母体のヘモグロビンの酸素解離曲線よりも上側に位置する。
③胎児のヘモグロビンが
母体の酸素ヘモグロビンの解離した酸素と結合することで、
胎児側へと酸素が供給される。