『生物基礎』ヘモグロビンの酸素解離曲線:見方編
この記事では、
次の記事「計算問題の解き方編」につながる
酸素解離曲線の基本的な見方を、
わかりやすく解説しています。
目次
目次
1. はじめに
ヘモグロビンの
酸素解離(かいり)曲線というのは、
ひとことで言えば、
ヘモグロビンという物質の、
”ある性質”が現れている
下図のようなグラフのことです。
生物基礎で出てくる
このグラフ。
ちゃんと読み解けるようになると、
肺から体の各部への
酸素の供給や、
妊娠中の母親から胎児への
酸素の供給(※)など、
入試の盲点になりやすい
酸素の供給に関する現象を、
より明確に理解できるようになります。
※:記事「胎児への酸素供給」を参照
まずは、
ヘモグロビンの解説から
始めましょう。
ヘモグロビンの性質を
しっかり押さえることで、
ヘモグロビンの酸素解離曲線の理解が
とてもスムーズに進みます。
2. ヘモグロビンの性質:酸素解離曲線の理解に必須!
2-1. ヘモグロビンと酸素ヘモグロビン
私たちは、息を吸って、
肺の中へ酸素を
とり入れています。
肺にある酸素は、
血液の流れによって
全身へと運ばれます(下図)。
この時に酸素は、
ヘモグロビン
という物質に
結合して運ばれるのです。
ヘモグロビンというのは、
血液中にある、赤血球(せっけっきゅう)という
細胞に含まれる赤い物質のことです(下図)。
ヒトの血液が赤く見えるのは、
ヘモグロビンを含む赤血球が、
血液中に沢山あるためです(下図)。
ヘモグロビンには、
酸素と結合したり、
結合している酸素を
離したりする性質
があり、
酸素と結合した
ヘモグロビンのことを
酸素ヘモグロビン
とよびます(下図)。
また、
酸素ヘモグロビンが
酸素を“離す”ことを、
酸素を“解離(かいり)する”
と言います(下図)。
2-2. 酸素濃度、二酸化炭素濃度との関係
ヘモグロビンは、
肺で酸素と結合し、その後、
その他の組織へ運ばれると
酸素を解離します(下図)。
なぜ、
ヘモグロビンは
タイミング良く肺で酸素と結合し、
組織で酸素を解離することが
出来るのでしょうか?
その理由は、
ヘモグロビンと、
血液の酸素濃度、二酸化炭素濃度との
深い関係にあるのです。
血液の酸素濃度というのは、
ある量の血液に含まれる成分のうち、
酸素が占める割合のことです。
また、
血液の二酸化炭素濃度というのは、
ある量の血液を構成する成分のうち、
二酸化炭素が占める割合のことです。
さて、次の文章は、
酸素解離曲線を理解する上で
最も大切なポイントになるので、
じっくりと読んで下さい。
ヘモグロビンには、
血液の酸素濃度が高いほど、また、
血液の二酸化炭素濃度が低いほど
酸素と結合しやすく、
逆に、
血液の酸素濃度が低いほど、また、
血液の二酸化炭素濃度が高いほど
酸素を解離しやすい
という性質があるのです。
一見、ややこしく思えますが、
以下のように捉えてみましょう。
後に詳しく解説しますが、
空気と接する肺は、
その他の組織に比べて
酸素が豊富にあり、
二酸化炭素は少なくなっています(下図)。
一方、組織では、
細胞の活動によって
酸素が消費され、
二酸化炭素が放出されるため、
酸素が少なく、
二酸化炭素が多く
なっています(下図)。
先ほど挙げた
ヘモグロビンの性質は、
酸素の豊富な肺で酸素と結合し、
酸素の少ない組織で酸素を解離する上で、
とても都合のよい性質なのです。
そして、この性質が、
ヘモグロビンの酸素解離曲線に
現れているのです。
3. ヘモグロビンの酸素解離曲線
3-1. 1本の酸素解離曲線の見方
ヘモグロビンの
酸素解離曲線というのは、
ある量の血液に含まれる、
全てのヘモグロビンに対する
酸素ヘモグロビンの割合(%)と、
その血液の酸素濃度との関係を
示すグラフのことです。
“ある量の血液に含まれる、
全てのヘモグロビンに対する
酸素ヘモグロビンの割合(%)”
という表現が、
イメージしにくい
かもしれませんので、
説明しましょう。
身近な環境の例で
同じ表現を用いてみると、
ある教室にいる、
全ての人に対する
寝ている人の割合(%)、
などのように言うことが
できます。
ある教室に
40人の人がいて、
20人寝ていれば、
寝ている人の割合は、
50%ということですね。
少しイメージ
出来ましたか?
では、
ヘモグロビンでのイメージも
作っておきましょう。
例えば、ある量の血液に、
ヘモグロビンが10個
含まれるとします(下図:赤血球の輪郭は略)。
全てのヘモグロビンに対する
酸素ヘモグロビンの割合が
40%であるというのは、
10個のヘモグロビンのうち、
4個が酸素ヘモグロビンになっている
とうことです(下図)。
では、いよいよ、
酸素解離曲線の説明に
入りましょう。
まず、グラフの軸について、
・縦(たて)軸:ある量の血液に含まれる
全てのヘモグロビンに対する
酸素ヘモグロビンの割合(%)
・横軸:血液中の酸素濃度(0~100までの相対値)
です(下図)。
酸素解離曲線には、
ある量の血液を用意して、
酸素濃度だけを実験的に
変化させたとき、
酸素ヘモグロビンの割合が
どう変化するかが
描かれています。
典型的な形の酸素解離曲線を、
1本描いて見てみましょう(下図)。
上図のように、
ヘモグロビンの酸素解離曲線は、
一般的に(いびつな)S字型のグラフになり、
酸素濃度が高いほど
酸素ヘモグロビンの割合が
増えることが読み取れます(下図)。
つまり、
酸素解離曲線には、
血液の酸素濃度が高いほど
酸素と結合しやすく、
血液の酸素濃度が低いほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れているのです。
3-2. 2本の酸素解離曲線の見方
生物基礎に出てくる
酸素解離曲線は、普通、
下図のように2本描かれています。
どういう事なのかを
説明しましょう。
結論を先に言うと、
酸素解離曲線は、
血液の二酸化炭素濃度が高いほど、
位置が右下側にシフトする
のです。
具体的に説明しましょう。
まず、先ほどと同様に、
ある量の血液を用意して、
下図のような
1本目のグラフが
得られたとします。
さて、ここで、
この血液に二酸化炭素を溶かし、
血液の二酸化炭素濃度を
グーンと高くします。
二酸化炭素濃度が
高くなった状態で、
酸素濃度だけを変化させ、
酸素ヘモグロビンの割合が
どう変化するかを描くと、
下図のように、2本目のグラフが、
1本目のグラフの
右下側に得られるのです。
二酸化炭素濃度が高くなると
グラフが右下側にシフトするというのは、
一体どういう事なのか?
そこを理解すれば、
酸素解離曲線の基礎は
バッチリです。
見ていきましょう。
まず、酸素濃度50の位置に、
縦軸と平行なラインを
引いてみましょう(下図)。
引いたラインと
2本の酸素解離曲線との
交点を見ると、
酸素濃度が同じ
50であっても、
二酸化炭素濃度が高い血液の方が
酸素ヘモグロビンの割合が少ない、
ということが
分かります(下図)。
他の酸素濃度で比べてみても、
同様です(下図)。
つまり、
血液の二酸化炭素濃度が高いほど
グラフが右下側にシフトする
という特徴には、
血液の二酸化炭素濃度が低いほど
酸素と結合しやすく、
血液の二酸化炭素濃度が高いほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れているのです。
そして、
生物基礎の教科書などで
ヘモグロビンの酸素解離曲線が
2本あるというのは、
異なる2つの
二酸化炭素濃度に対応した
酸素解離曲線が描かれている、
ということなのです。
2本に限らず、
例えば、応用問題で、
血液の二酸化炭素濃度が
低い、中程度、高い(相対値)場合の
酸素解離曲線が描かれれば、
下図のように
グラフは3本になります。
でも、グラフが何本に増えようと、
これまでに説明した基礎的な見方に、
変わりはないのです。
では、ここまで説明した
ヘモグロビンの酸素解離曲線の、
最重要ポイントをまとめておきましょう。
①血液の酸素濃度が高いほど
酸素ヘモグロビンの割合が増えて、
S字型の右上がりのグラフになる(下図)。
②血液の二酸化炭素濃度が高いほど
酸素ヘモグロビンの割合が減って、
グラフの位置が右下側にシフトする(下図)。
前半は、ここまでです。
確認問題をやってみましょう。
4. 前半の確認問題
以下の空欄に適する
語句を答えなさい。
③以降は、正しい語句を選びなさい。
酸素と結合した
ヘモグロビンのことを
(①: )とよぶ。
酸素解離曲線は、
一般的に(②: )字型の
曲線となる。
下のグラフから、
酸素濃度が高いほど、
酸素ヘモグロビンの割合が
(③:多くなる、少なくなる)ことが読み取れる。
上図のグラフには、
血液の酸素濃度が(④:高い、低い)ほど
酸素と結合しやすく、
血液の酸素濃度が(⑤:高い、低い)ほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れている。
異なる2つの
二酸化炭素濃度の血液について、
酸素解離曲線を描くと
下図のようになる。
2本のグラフのうち、
二酸化炭素濃度がより高い血液での
酸素解離曲線は、グラフ(⑥:A、B)である。
上図のグラフには、
血液の二酸化炭素濃度が(⑦:高い、低い)ほど
酸素と結合しやすく、
血液の二酸化炭素濃度が(⑧:高い、低い)ほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
解答
酸素と結合した
ヘモグロビンのことを
(①:酸素ヘモグロビン)とよぶ。
酸素解離曲線は、
一般的に(②:S )字型の
曲線となる。
下のグラフから、
酸素濃度が高いほど、
酸素ヘモグロビンの割合が
(③:多くなる)ことが読み取れる。
上図のグラフには、
血液の酸素濃度が(④:高い)ほど
酸素と結合しやすく、
血液の酸素濃度が(⑤:低い)ほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れている。
異なる2つの
二酸化炭素濃度の血液について、
酸素解離曲線を描くと
下図のようになる。
2本のグラフのうち、
二酸化炭素濃度がより高い血液での
酸素解離曲線は、グラフ(⑥:B )である。
上図のグラフには、
血液の二酸化炭素濃度が(⑦:低い)ほど
酸素と結合しやすく、
血液の二酸化炭素濃度が(⑧:高い)ほど
酸素を解離しやすい、
という、
ヘモグロビンの性質が
現れている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以下、後半
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5. 酸素解離曲線で読み解く、肺胞から組織への酸素の供給
ヘモグロビンの酸素解離曲線は、
多くの場合、
肺胞(はいほう)という部位から、
(肺以外の)組織への酸素供給と
関連づけて説明されます。
この記事では、
この酸素供給に注目して
解説しましょう。
5-1. 肺胞(はいほう)での酸素ヘモグロビンの割合
鼻の穴と口から続く
ノドの奥は
管状になっていて、
行き先が、胃と肺の
2方面に分かれています(下図)。
肺の方面に向かう管は、
肺に入ると細く
枝分かれしていきます。
そして、
その各枝の先端を見ると、
小さな球状のつくりが
たくさん集まっているのです(下図)。
この、肺内にみられる
球状のつくりのことを
肺胞(はいほう)
といいます(下図)。
肺胞が集まった様子は、
見た目としては
ブドウの房に似ています。
息を吸うと
空気が肺胞へ入り、
1つ1つの肺胞が
風船のように
ふくらみます(下図)。
ツブの小さなブドウが、
巨峰(きょほう)になる
イメージですね。
息を吸うと胸がふくらむのは、
1つ1つの肺胞がふくらむ
ことによるのです。
肺胞には血管が接していて、
空気と血液との間で、
酸素と二酸化炭素の出入りが
起きています(下図)。
私達が普段生活しているような
場所の空気は、血液に比べて、
酸素濃度が高く、
二酸化炭素濃度が低く
なっています。
このため、
肺胞の血液は、その他の組織の血液に比べて
酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低く
なっている
のです。
そして、肺胞では、
血液中のヘモグロビンの多くが
酸素ヘモグロビンとなっています。
このことを、
酸素解離曲線から
読み取ってみましょう。
ヒトの肺胞の血液と
同じ程度の二酸化炭素濃度にした
血液について、
酸素解離曲線を描くと、
下図のようになります。
また、ヒトの肺胞の血液の
酸素濃度は約100です。
したがって、
上図の酸素解離曲線から、
肺胞の血液の
酸素ヘモグロビンの割合は、
約95%であると読みとることが
出来ます(下図)。
実際の肺胞にある血液も、
その程度の割合になっていると
考えられるのです。
5-2. 組織での酸素ヘモグロビンの割合
肺胞の血液は、
肺を出て体の各組織へ
流れていきます。
体の各組織では、
細胞の活動によって酸素が使われ、
二酸化炭素が放出されています。
このため、
組織の血液は、
肺胞の血液に比べて酸素濃度が低く、
二酸化炭素濃度が高くなっている
のです。
組織では、
酸素ヘモグロビンの多くが酸素を解離して、
組織の細胞に酸素を供給します。
酸素解離曲線から
読み取ってみましょう。
組織の血液の
酸素濃度と二酸化炭素濃度は、
体の状態などによって変化しますが、
ここでは、
平均的な濃度の場合を例にとって
解説します。
組織の血液と同じ程度の
二酸化炭素濃度である血液について、
酸素解離曲線を描くと、
下図のようになります。
また、組織の血液の
酸素濃度を約30とします。
この時、組織の血液の
酸素ヘモグロビンの割合は、
約30%であると読み取れます(下図)。
5-3. 組織への酸素の供給
肺胞の血液の
酸素ヘモグロビンの割合が95%。
この血液が組織に入って
酸素が解離され、
組織の血液の
酸素ヘモグロビンの割合が30%になる、
と考えると、
全てのヘモグロビンのうち、
95-30=65(%)
のヘモグロビンが、
組織に酸素を供給すると
計算することができるのです。
イメージしやすいように、
この計算過程を
図に置き換えて描いてみましょう。
肺胞の血液の
酸素ヘモグロビン割合(95%)は、
下図のように描くことができます。
この図に、
組織の血液の酸素ヘモグロビン割合(30%)を
描き加えてみましょう(下図)。
両者を見比べると、
全てのヘモグロビンのうち、
下図の赤色点線枠にあたる
65%のヘモグロビンが、
酸素を解離すると読み取れます(下図)。
なお、
組織で酸素を解離しなかった
残り30%のヘモグロビンは、
酸素ヘモグロビンのまま
肺胞へと戻ります。
そして、肺胞で再び
酸素ヘモグロビンの割合は
約95%に戻るのです。
⇒ ・続きの記事「ヘモグロビンの酸素解離曲線:計算問題の解き方編」
・入試対策の発展的な記事「胎児への酸素供給」
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