『生物基礎』免疫と物理的・化学的防御を短期マスター!

物理的防御、化学的防御と免疫の短期マスターと書かれた図。

『この記事について』
この記事では、

ウィルスなどから
体を守る仕組みである、

生体防御:

・物理的防御、化学的防御
免疫(自然免疫と獲得免疫)

の仕組み

についてイチから
解説しています。

免疫を始めて学ぶ人や、
免疫分野が苦手という人にとっても、

分かりやすく、かつ、
短期間で覚えやすいように

目次1(生体防御・免疫の基本)では、

生体防御の全体像、
特に免疫における
戦闘シーンの全体像が、
イメージ(図)として頭に残りやすいように

解説をします。

先に全体像のイメージ(図)を
頭に入れておくことで、
目次2以降で扱う

・物理的防御、化学的防御の詳細
・免疫の詳細

においては、
細かい内容に惑わされることなく
学習が進められるでしょう。
mokuji

1:生体防御・免疫の基本

1-1. 異物、病原体

※:生物基礎では、ヒトの体における
生体防御・免疫について扱います

免疫分野において、
自身の体の構成成分ではない物質や細胞など
のことを異物といいます。

代表的な異物は、

・病原体:病気の原因となる細菌やウィルスなど
・人体にとっての有害物質

などです。

私たちは、常に、
病原体などの異物に
さらされながら生活しています。

例えば、
ヒトに感染してカゼの症状を引き起こす
ウィルスは、空気中など、いたるところに
存在しています。

だからといって、
私達は、いつもカゼを引いている
わけではなく、

また、カゼを引いたとしても、
多くの場合、数日以内に体調が回復します。

これは、私たちの体が、
ウィルスなどから体を守る仕組みを
備えているからなのです。
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1-2. 生体防御・免疫とは

体内への異物の侵入を防いだり、
侵入した異物を排除したりする仕組みのことを

生体防御(せいたいぼうぎょ)

といいます。

このあと、
生体防御の仕組みの名前が
いくつか出てきますが、

ここでは、無理に覚えず、
ああ、色々あるんだな。』程度に、
さらっと読み流すだけでOKです

では、いってみましょう。

生体防御は、大まかに分けると、
以下の2段階からなっています。

①物理的防御、化学的防御
⇒ 異物が体内に侵入することを防ぐ仕組み

免疫(めんえき)
⇒ 体内に侵入した異物を排除する仕組み

また、免疫は、
以下の2段階

①自然免疫
②獲得免疫(適応免疫ともいう)

に分けられ、

獲得免疫には、以下の
2つの仕組みがあります。

・体液性免疫
・細胞性免疫

つまり、生体防御の全体は、
詳しく分けると、
以下の3段階に分けられるのです(下図)。

以下の過程を、矢印を用いた流れずで示した。第1段階は物理的・化学的な防御、第2段階は自然免疫、第3段階は獲得免疫(細胞性免疫と体液性免疫)

※:第1段階の防御を、自然免疫に含める
場合もあります。

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1-3. 生体防御・免疫の戦闘シーン全体像

では、ここから、
病原体などの異物から
体をどのように守っているのかを
具体的に解説しましょう。

分かりやすくするために、
1種類の病原体(下図)が侵入するものとして
解説を進めます。
病原体の模式図。大きな1つの円に、小さな4つの円が上下左右にくっついた形をしている。漫画風に、サングラスをかけている。

※:特徴がイメージしやすいように
顔を描いています。

体のまわりには、色々な
病原体が存在しています(下図)。

ヒトの体の周りに多数の病原体が描かれている。

   ↓

【第1段階:物理的、化学的な防御】

皮膚(ひふ)などが障壁となって、
病原体の侵入を防いでいます(下図)。

病原体が、皮膚によって跳ね返されているように描かれた図

しかし、皮膚が傷つくなどの原因によって
体内に病原体が侵入した場合は(下図)、

皮膚の傷から病原体が侵入する図

次の仕組みが発動します。

 ↓

【第2段階:自然免疫】

病原体に侵入された部位に、
食細胞という、病原体を食べる細胞が
集まってきます(下図)。

体内に侵入した病原体の前に、巨大な食細胞が描かれている。病原体はビビっている。

※:図中の”食”は、食細胞を示す。

そして、
病原体を次々に食べて
分解していくのです(下図)。

食細胞が病原体を食べて、ばらばらに分解する図

多くの場合、この段階で、
侵入した病原体を全て
排除することが出来ます。

しかし、
侵入した病原体の
増殖が速かったり(下図)、

1つの食細胞のまわりに、大量の病原体ががかれている。食べきれない。

体を構成する細胞の中に
病原体が入り、
感染細胞が生じたりすると(下図)、

体の細胞内に病原体が入り込んだ図。食細胞は、病原体を食べられない。

食細胞だけでは
対応が出来なくなります。

 ↓

【第3段階:獲得免疫(適応免疫)】

食細胞の1種である
樹状細胞という細胞が、侵入部位を離れて、
リンパ節という場所に移動します(下図)。

巨大な食細胞が、大量の病原体に囲まれ、樹状細胞が、その場を離れていく様子を描いてある。

リンパ節には、
ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞という
3種類の強力な細胞が存在します(下図)。

ヘルパーT細胞は、指令の文字をかかげている。キラーT細胞はターミネーター風に、B細胞は忍者風に描いてある。

樹状細胞の働きを受けると、
ヘルパーT細胞とキラーT細胞は、
増殖します(下図)。

ヘルパーT細胞とキラーT細胞が大量に描いてある。

まずは、兵力増強と
いったところです。

その後、キラーT細胞は、
感染細胞を探し出して破壊し、
病原体を排除します(下図)。

キラーT細胞が感染細胞を破壊している図

また、ヘルパーT細胞は、
B細胞に攻撃の命令を出します(下図)。

ヘルパーT細胞がB細胞に攻撃の命令を下す図。

すると、B細胞も増殖し、
抗体産生細胞という細胞に変化して、

抗体という物質を大量に放出し、
異物を攻撃するのです(下図)。

灰色の忍者風に描かれたB細胞が、黒色の忍者風に描かれた抗体産生細胞に変化し、Yの字の形をした抗体を大量に放出している。いくつかの抗体が、病原体にくっついている。

こうした仕組みによって
病原体が完全に排除されれば、
一件落着です。

しかし、またいつ
同じ病原体が侵入して来るか
わかりません。

このため、今回侵入した
病原体と戦ったヘルパーT細胞、
キラーT細胞、B細胞の一部は、

病原体を排除したあとも、
体の中に残り、同じ病原体の侵入に
備えているのです(下図)。

ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞が描いてあり、キラーT細胞が「またアイツ(同じ病原体)が来たらすぐに向かう」と言っている。

さて、これで全体像の解説は以上です。
これまでの戦闘シーンを
図でまとめておきましょう。

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1-4. 生体防御、免疫のまとめの図

・第1段階:物理的・化学的防御
・第2段階:自然免疫
・第3段階:獲得免疫(適応免疫)

第1段階から第3段階までの図をまとめて描いてある。

2:物理的防御と化学的防御の詳細

異物が体内に侵入することを
防ぐ仕組みのことを、
物理的防御・化学的防御といいます(下図:点線枠)。
物理的防御、化学的防御の図。皮膚から内部に侵入できないでいる病原体の様子が描かれている。

2-1. 物理的防御(皮膚と粘膜)

①皮膚(ひふ)
ヒトの皮膚の表面は、
角質層(かくしつそう)という、
古くなって死んだ細胞からなる層で
覆われています(下図)。

皮膚の断面図。もっとも表面側には、死んだ細胞が数層に積み重なる。これが角質層。
皮膚の内部では、
常に新しい細胞が作られており、

古い細胞は
皮膚の表面へと押し上げられ、

やがて、死んだ細胞となって
角質層から、はがれ落ちて行きます(下図)。

皮膚の奥で新しい細胞ができる。その細胞は、日がたつにつれ、皮膚の表面へと移動していき、最後ははがれおちる。この流れを描いた図

例えば、垢(あか)やフケは、
角質層からはがれた細胞の
かたまりです。

皮膚では、このように
古い細胞が はがれ落ちて、
新しい細胞に置き換わることで、
異物の侵入を防いでいます。

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②粘膜
鼻や口などの内側の表面は、
粘膜という組織でおおわれています。

粘膜は、粘液という
ネバネバした液体を出すことで、
粘膜表面にある細胞への異物の接触を防ぎ、

体内への異物の侵入を
防いでいます(下図)。
粘膜の細胞の表面に、厚い粘液の層があり、異物がここにくっつき、粘膜の細胞に触れない。これを描いた図。

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2-2. 化学的防御(リゾチーム、汗・胃酸)

だ液や鼻水には、
リゾチーム
とよばれる、

細菌の細胞壁を分解する
働きをもつ酵素

が含まています。

※:細胞壁って何だっけ? → 「原核細胞の細胞壁
※:酵素って何だっけ? → 「酵素

また、皮膚から出る汗や、
胃の内部で放出される胃酸は
酸性であり、

皮膚の表面や胃の内部での
細菌などの増殖を抑えています。

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2-3. 物理的防御と化学的防御のまとめ

①物理的防御
皮膚での細胞の入れ替わりによって異物の侵入を防ぐ、
粘膜表面の粘液によって異物の侵入を防ぐ。

②化学的防御
だ液や鼻水中のリゾチームによって細菌の細胞壁を分解する。
汗や胃酸が酸性であることで、細菌などの増殖を防ぐ。

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3:免疫の詳細『自然免疫と獲得免疫(適応免疫)の違い』

体内に侵入した異物を排除する仕組みのことを、
免疫(めんえき)といいます(下図:点線枠)。
免疫の全体像を描いた図

3-1. 免疫を担う細胞の違い

まずは、免疫を担う細胞を
見渡しておきましょう。

白血球は、血液などに含まれる、
免疫を担う細胞の総称です。

白血球には、

・食細胞
・リンパ球

と総称される細胞が含まれます。

免疫は、
自然免疫と獲得免疫(適応免疫ともいう)
に分けられます。

食細胞とリンパ球に
属する細胞をまとめ、

・自然免疫を担う細胞
・獲得免疫を担う細胞

に分類すると、
下表のようになります。

各細胞の働きは、後に解説しますので、
今は、『色々あるな』くらいの
イメージを持っていて下さい。

免疫を担う細胞をまとめた表。食細胞は、マクロファージ、好中球、樹状細胞に分けられる。リンパ球は、NK細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞と抗体産生細胞にわけられる。

※:この記事では、
各細胞のイメージがしやすいよう
顔を描いてあります。

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3-2. 非特異的か特異的か

自然免疫と獲得免疫の
大きな違いの1つは、

非特異的か、特異的か、
ということです。

自然免疫を担う細胞は、
病原体などの異物を
”非特異的”に排除
するのに対し、

獲得免疫を担う細胞は、
病原体などの異物を
”特異的”に排除
します。

自然免疫を担う
個々の細胞は、

特定の異物に限定することなく、
さまざまな異物を認識して排除します。

こうした特徴のことを
”非特異的”と表現します。

一方で、
獲得免疫を担う
個々の細胞は、

それぞれ、1種類の異物にのみに
反応して排除します。

こうした特徴のことを
”特異的”と表現します(下図)。

3種類の病原体に対し、自然免疫の細胞は1つの細胞で対応できるが、獲得免疫の細胞では、1つの細胞が1つの病原体に対応する。この様子を描いた図。

非特異的、特異的を
害虫駆除の業者で例えてみると、

害虫なら何でも
駆除しますという業者は、

様々な害虫を
非特異的に駆除していると言え、

ゴキブリ駆除専門の業者は、

ゴキブリだけを
特異的に駆除していると
言えるでしょう。

それでは、まず、
自然免疫の仕組みから解説して
いきましょう。

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3-3:自然免疫

自然免疫の全体像を描いた図

3-3-1. 自然免疫とは

自然免疫というのは、

動物の体に
生まれつき備わっている免疫

のことです。

自然免疫の主な特徴は、
以下の2つです。

・異物を非特異的(※)に排除する
・食細胞(マクロファージ、好中球、樹状細胞)、
 NK細胞(ナチュラルキラー細胞ともいう)が関与する

※:「2:非特異的と特異的」を参照

では、自然免疫の
仕組みを見ていきましょう。

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3-3-2. 自然免疫の3つの仕組み

体の表面は、
皮膚や粘膜(口や鼻の内部の表面)におおわれ、

病原体などの異物が
体内に侵入することを
防止しています(下図)。

病原体が、皮膚によって跳ね返されているように描かれた図

しかし、皮膚に傷がついたり、
粘膜に多くの異物が付着することなど
原因となって、体内に異物が侵入すると、

体は、まず、自然免疫の仕組みによって
異物を排除しようとするのです。

自然免疫の主な仕組みは
以下の3つです。

・食細胞の食作用による排除
・NK細胞(ナチュラルキラー細胞)による排除
・炎症(えんしょう)

1つずつ、
順番にみていきましょう。

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3-3-3. 食細胞の食作用による排除

食作用を行う細胞のことを、

食細胞

といいます。

食作用というのは、
病原体などの異物を細胞内に取り込んで
分解する働きのことです。
(下図:食細胞の一種マクロファージ)

食作用の図。円で描かれたマクロファージの内部に、病原体が取り込まれ、バラバラにされる様子が描いてある。

病原体が体内に侵入すると
侵入部位に、

・マクロファージ
・好中球(こうちゅうきゅう)
・樹状細胞

という食細胞が
集まってきます(下図)。

体内に侵入した病原体の前に、巨大なマクロファージ、好中球、樹状細胞が描かれている。病原体はビビっている。

そして、食作用によって
非特異的に病原体を排除するのです(下図)。

病原体が取り込まれ、バラバラにされている様子を描いた図

多くの場合、侵入した異物は、
この食作用の段階で完全に排除されます。

例えば、

転んで手やヒザに傷口ができると、
地面や皮膚にいた病原体が、
体内に沢山侵入してきます。

それでも多くの場合、
体調に支障が出ることもなく
傷が治っていくのは、

傷口から侵入した病原体が
食細胞によって完全に
排除されているからなのです。

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3-3-4. NK細胞(ナチュラルキラー細胞)による排除

自然免疫を担う細胞には、食細胞の他に
NK細胞という細胞があります。

NK細胞は、
ナチュラルキラー細胞ともよばれ、
リンパ球の一種に分類されます。

後に扱う獲得免疫の仕組みで、
キラーT細胞という、
よく似た名前の細胞が出てきますが、

ごっちゃにならないよう、

NK細胞のNKは、
Natural Killer(ナチュラルキラー) の
頭文字をとった呼び方であり、

Naturalは、自然免疫(natural immunity)の
”natural”に対応していると覚えておきましょう。

NK細胞は、
病原体が感染した感染細胞と、
感染していない細胞との違いや、

がん細胞(※)と正常な細胞との違いを
区別することが出来ます。
※:体内で生じた、無秩序に分裂増殖する異常な細胞

NK細胞は、体内を動き回り、
感染細胞や、がん細胞を直接に攻撃して
細胞ごと排除するのです(下図)。

NK細胞が感染細胞とがん細胞を破壊する様子を描いた図

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3-3-5. 炎症

病原体などの異物が侵入した部分が、
熱や痛みを伴って赤くはれることを

炎症(えんしょう)

といいます。

例えば、
何かを食べている時に
舌を強くかんでしまい、

出血が止まったあとも、かんだ部分が、
ポチっと膨らんで痛かった経験が
ありませんか?

これは、かんだ部分の傷口から
細菌などが侵入し、その部分で
炎症が生じているのです。

ボンボ
ボンボ
炎症なんて、痛くてイヤだなぁ。

そうですね。
でも、炎症には、異物から体を守るうえで
大切な役割があるのですよ。

炎症が生じる主な仕組みは、
次の通りです。

異物が侵入した部位では、そこへ
集まったマクロファージの働きによって、
毛細血管が拡張します。

その結果、
侵入部位での血流量が増え、
血液中の白血球が集まりやすくなるのです(下図)。

炎症の図。毛細血管が一部太くなり、多くの白血球が集まっている。

このように、
炎症というのは、
異物の侵入部位に多くの白血球を呼び寄せて
それ以上の侵入を食い止めようとしている
体の姿なのです。

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3-4:獲得免疫(適応免疫)

獲得免疫の全体像を描いた図

3-4-1. 獲得免疫とは

異物の侵入後に
獲得される免疫のことを

獲得免疫(適応免疫ともいう)

といいます。

獲得免疫の主な特徴は、
以下の3つです。

・病原体を特異的(※)に排除する
・T細胞(ヘルパーT細胞、キラーT細胞)、B細胞が関与する
・免疫記憶の仕組みがある

※:この記事の「非特異的と特異的」を参照

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3-4-2. 多様なリンパ球(T細胞とB細胞)、抗原

自然免疫の食作用だけでは
異物を排除しきれないような場合、
獲得免疫の仕組みが働きます。

ヒトの体に侵入する
異物の種類は非常に多様ですが、

非特異的と特異的」でも
触れたように、

獲得免疫を担
個々のリンパ球(T細胞、B細胞)は
1種類の異物しか認識できません。
(下図:キラーT細胞の例)

2種類の病原体と、2つのキラーT細胞が描いてある。2つのキラーT細胞は、それぞれ1つの病原体だけを認識するということを病原体に向けられた1本の矢印で描いてある。

そのかわり、体内には、
認識する異物の種類が異なるT細胞やB細胞が、
少数ずつ多様に存在しているため、

様々な異物の侵入に
対応できるのです。
(下図:キラーT細胞の例)

複数の種類の病原体と、それぞれの病原体を認識する複数個のキラーT細胞が描いてある。

なお、
リンパ球(T細胞やB細胞)によって
異物として認識される物質のことを

抗原(こうげん)

と言います。

抗原という用語は、
異物として認識された病原体や、
病原体などを構成する物質に対して
用いられます。

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3-4-3. 獲得免疫の開始:抗原提示

※:獲得免疫の仕組みの解説では、
下図のような、黒丸のでっぱりがある
1種類の病原体が侵入した場合
を想定して
説明していきます。

病原体の模式図。大きな1つの円に、小さな4つの円が上下左右にくっついた形をしている。漫画風に、サングラスをかけている。

・・・・・・・・・・・・

病原体を取り込んだ樹状細胞は、
リンパ節とよばれる、

T細胞やB細胞の集まっている部位へと
移動します(下図)。

樹状細胞の前に、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞が1つずつ描かれている。

この時、樹状細胞は、
細胞内で分解した病原体の断片を
細胞の表面に出すのです。

この働きのことを、

抗原提示(こうげんていじ)

といいます(下図)。

抗原提示の図。病原体の断片を細胞の外にくっつけて見せている。

樹状細胞からの抗原提示によって
T細胞が活性化されることで、
獲得免疫が開始するのです。

ここからは、仕組み上

・細胞性免疫
・体液性免疫

に分けられます。

まず、細胞性免疫の仕組みを
解説していきましょう。

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3-4-4. 細胞性免疫

①細胞性免疫とは

感染細胞を排除し、
食細胞の働きを促進する獲得免疫のことを

細胞性免疫

といいます。

細胞性免疫は、

・ヘルパーT細胞
・キラーT細胞

というリンパ球が中心となって
起こります。

②細胞性免疫の仕組み

リンパ節に存在するT細胞のうち、
樹状細胞によって提示された抗原を
認識できるヘルパーT細胞、キラーT細胞(※)が
活性化します(下図)。

複数のヘルパーT細胞とキラーT細胞が描いてあるが、抗原を認識できるヘルパーT細胞、キラーT細胞1つずつが活性化している図。

※:キラーT細胞の活性化には、ヘルパーT細胞からの
働きかけが必要である場合もあります。

そして、増殖します。
イメージとしては、攻撃前の
兵力の増強です(下図)。

活性化してオレンジの色をまとったヘルパーT細胞とキラーT細胞が6個ずつ描いてある。
※:活性化していることをオレンジ色の円で
表現している。

増殖した後、

活性化したキラーT細胞は、
全身をめぐって
感染細胞を見つけて破壊します(下図)。

体の1つの細胞内に3つの病原体が感染している。この細胞を、キラーT細胞がバラバラに破壊する様子を描く図。

また、
活性化したヘルパーT細胞は

病原体の侵入部位に移動して、

自然免疫を担う細胞(食細胞、NK細胞)の
働きを促進
します(下図)。

ヘルパーT細胞がマクロファージと好中球を活性化する様子を描いた図

細胞性免疫では、
こうした仕組みによって、
病原体を排除するのです。

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3-4-5. 体液性免疫

①体液性免疫とは

抗体によって異物を排除する
獲得免疫のこと

体液性免疫

といいます。

体液性免疫は、

・ヘルパーT細胞
・B細胞
B細胞が変化した抗体産生細胞(形質細胞ともいう)

というリンパ球が
中心となって起こります。

②体液性免疫の仕組み

リンパ節に存在する多様なT細胞のうち、
樹状細胞によって提示された抗原を
認識できるヘルパーT細胞が
活性化して、増殖します(下図)。

複数のヘルパーT細が描いてあるが、樹状細胞が提示する抗原を認識できる1つのヘルパーT細胞だけが活性化している様子を描いてある。

活性化したヘルパーT細胞は、あらかじめ
同じ種類の抗原を認識していたB細胞(※)を
活性化します(下図)。
※:B細胞は、独自に抗原を認識できる。

B細胞は抗原の侵入に気付いている。そこに、ヘルパーT細胞からの働き掛けがあって、B細胞が活性化する。この様子を描いてある。

すると、B細胞は増殖した後、
抗体産生(さんせい)細胞(形質細胞ともいう)
という細胞に変化するのです(下図)。

B細胞が3つ描かれている。各々が抗体産生細胞に変わる。

抗体産生細胞は、
抗体
というY字型の物質を体液中に
沢山放出します(下図)。

抗体産生細胞1つが、多数の抗体を放出している図

抗体は、
免疫グロブリンとよばれる
タンパク質で出来ており、

個々の抗体産生細胞は、
1種類の抗体だけ産生します。

抗体は、体液に運ばれて
全身をめぐり、

やがて、抗原抗体細胞が認識していた
病原体(抗原)と特異的に結合します。

抗原と抗体が結合すること

抗原抗体反応

といいます(下図)。

抗原抗体反応の図。抗体が病原体に複数個くっついている。

抗原抗体反応の結果、

・抗原が無毒化される
・抗原に結合した抗体が目印となって
 マクロファージなどの食作用を受けやすくなる

といったことが起き、
病原体(抗原)が排除されていくのです。

・・・・・・・・・・
こうして、体内から病原体が排除されれば
一件落着ですが、

また、いつ同じ病原体に侵入されるか
わかりません。

そこで、獲得免疫には、
再度同じ病原体が侵入した際に
よりスムーズに対応できるような仕組み

免疫記憶

が存在しています。

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3-4-6. 免疫記憶

抗原が体内から排除されると、
活性化したT細胞とB細胞のほとんどは
死滅します。

しかし、
活性化されたT細胞とB細胞の一部は、
記憶細胞となって、体内に長期間残るのです。

そして、
再び同じ抗原が侵入したとき、
記憶細胞が速やかに増殖することで、
より速やかに、より強い免疫反応が起きるのです。

この仕組みのことを

免疫記憶

と言います(下図)。

記憶細胞の図。ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞が描いてあり、キラーT細胞が「またアイツ(同じ病原体)が来たらすぐに向かう」と言っている。

インフルエンザを例に
とってみましょう。

ヒトのインフルエンザは、
インフルエンザウィルスが
人体に感染することで発症します。

しかし、一度
インフルエンザを発症して回復したら、

1年間くらいは、インフルエンザを発症しないか、
発症しても、軽い症状ですむことが多いのです。

これは、感染したインフルエンザウイルスに対する
記憶細胞が体内に残っており、ウィルスが感染しても
速やかに排除されるためです。

ただし、インフルエンザウィルスには、
複数のタイプがあるため、

異なるタイプのインフルエンザウィルスに
感染した場合は、まだ、そのウィルスに対する
記憶細胞が体内に無く、

同じ年に2回以上、
インフルエンザを発症する
場合があります。

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3-4-7.  一次応答と二次応答のグラフ

初めての異物が
侵入したときの免疫反応を
一次応答とよび、

同じ異物が再び侵入したときの、
記憶細胞による免疫反応を

二次応答

とよびます。

1つ前の項目『免疫記憶とは』で
解説したように、

二次応答は、
一次応答に比べて、

より速やかで、より強い反応

になります。

この項目では、

体液性免疫における、
一次応答と二次応答の違い

を、具体的に
見てみましょう。

下図は、同じ抗原を、
日数をおいて2回注射し、

注射後の経過日数と、注射した抗原に
対応する血液中の抗体量との関係を調べて
グラフ化したものです。

一次応答と二次応答のグラフである。縦軸に抗体量、横軸に経過日数をとってある。1回目注射後、1週間ほどで抗体量が増え始め、縦軸の値1の程度で最大値となり、その後は抗体量が徐々に減少する。これが一次応答のグラフである。2回目の注射後は、直ちに抗体量が増え始め、最大値は70近くになる。これが二次応答のグラフである。

抗原を注射してから
抗体が増え始めるまでの時間を比べると、

一次応答では、1週間程度かかっていますが、
二次応答では、直ちに増え始めている
ことがわかります(下図:黒矢印)。

抗体量が増え始める位置に、黒い矢印がかいてある。1回目の注射では、約1週間後に増え始め、2回目の注射では、直ちに増え始めている。

また、
抗体量の最大値を比べると

二次応答での最大値は、
一次応答での最大値よりも
大幅に増えていることが分かります(下図:点線)。

抗体量の最大値は、一次応答では、縦軸の値で1、二次応答では70程度。

では、もしも2回目に、
1回目とは異なる、初めて侵入する抗原を注射した場合は、
どのようなグラフになるでしょうか?

この場合は、
2回目の抗原に対する
記憶細胞が生じていないので
一次応答が起き、

1回目の注射時と同様の
グラフが得られます(下図)。

2回目の注射時のグラフは、1回目の注射時のグラフと形がほぼ同じである。

 

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3-5. 自然免疫と獲得免疫の違いのまとめ


自然免疫では、非特異的に異物が排除される。
獲得免疫では、特異的に異物が排除される。


自然免疫では、食細胞とNK細胞が中心に働く。
獲得免疫では、T細胞とB細胞が中心に働く。


獲得免疫には、免疫記憶という仕組みがある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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