腎臓③:計算に必要な基礎知識、濃縮率の求め方

『この記事について』

腎臓の計算問題は、
以下の4つに大別できます。

・濃縮率の計算
・原尿量の計算
・再吸収量の計算
・再吸収率の計算

この記事の前半では、
上記4つの、全ての計算問題を
攻略するのに必要

・腎臓の基礎知識
・濃度と密度

について解説します。

記事の後半では、
原尿量の計算にもつながる、

濃縮率の計算

について解説します。

その他の計算については、
以下の記事で扱っています。

→ 原尿量の計算
→ 再吸収量、再吸収率の計算
→ グルコース排出量のグラフ

目次

1:計算に必要な、腎臓の基礎知識

腎臓の計算問題を解くには、
腎臓の働きである

・ろ過
・再吸収

の仕組みの理解が必須です。

詳しくは、
記事「腎臓②:腎臓の働き」
扱っていますが、

この記事では、
計算に必要な最低限の知識だけを
さらっと確認していきましょう。

血液の成分は、

・赤血球、白血球などの細胞(血球と総称される)
血しょう(水を中心とした液体の成分)

に分けられます(下図)。

液体である血しょうの中に、3タイプの血球が描いてある。各血球は、赤いだ円形、白い小さな円、白い大きな円で描かれている。

腎臓内の糸球体(しきゅうたい)と
呼ばれる部位の血管は、
壁に小さな孔(あな)が空いています。

そして、血液がこの血管を流れる時に、
血しょうの一部が孔を通って
血管の外へ出るのです。

赤血球などの血球は、大きいため
外へ出られません。

このように、腎臓内で
血しょうの一部が
血管外へ出る仕組みのことを

ろ過

と言います。

ろ過の結果、
血管外へ出た液体のことを
原尿(げんにょう)と呼びます。
(下図:孔の開いた血管で行われる ろ過)

ろ過の図。腎孔のある血管が、2本の点線で描いてある。2本の点線に囲まれた血管内にある血しょうが、点線の孔を通って外へ出ることが矢印で描かれている。この矢印が、ろ過にあたる。出た液体が原尿である。

原尿の成分には、
体にとって必要な成分と
不要な成分の両方が含まれています。

原尿の成分のうち、一部の成分
(主に体にとって必要な成分)は、
再び血管内へと戻されます。

この仕組みのことを

再吸収

と言います。

再吸収は、原尿が
細尿管(さいにょうかん)という管などを
通るときに行われます。

再吸収の後に残った液体を
尿と呼び、

腎臓を出たのち、
ぼうこう などを経て体外へと
排出されます(下図)。

再吸収の図。血管外に、原尿が黄色い四角で描かれている。血管外の原尿から血管内へ再吸収される様子が、血管内へ向く矢印で描いてある。再吸収の結果、残った液体が尿で、原尿よりも小さな黄色い四角で描かれている。原尿の四角と、尿の四角の差の部分が、再吸収された部分である。

つまり、腎臓では、
まず、大まかに血しょうの一部を血管外へと
取り出し、後から、体に必要な物質を回収して、
不要な物質を尿として捨て去っているのです。

ちょうど、机の引き出し中を大掃除する際に、
一度全部モノを取り出して、後から、必要なものを
引き出しの中に戻すことと似ています。

では次に、
濃度と密度の解説に
入りましょう。

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2:濃度と密度

2-1. 体積濃度と質量パーセント濃度

濃度というのは、
溶液に含まれる溶質の割合
のことです。

血しょう、原尿、尿などが
溶液にあたります

腎臓の計算問題では、

・体積濃度:単位(mg/mLなど)
・質量パーセント濃度:単位(%)

の2つが頻出します。

まずは、
これらの濃度の扱い方を
マスターしましょう。

2-2. 体積濃度

体積濃度というのは、
溶質の質量を、溶液の”体積”で割って
求められる濃度のことです(下図)。

体積濃度=溶質の質量÷溶液の体積

例えば、

1mLの尿(溶液)に、
尿素という溶質が20 mg
含まれるとき、

この尿における
尿素の体積濃度は、

20 mg ÷ 1 mL = 20 mg/mL

となります。

逆に言えば、

〇〇 mg/mL

という濃度表記は、

1 mLの溶液に
〇〇 mgの溶質が含まれますよ

という情報を、
簡単に書き表した
ものなのです。

例えば、

『尿中の尿素濃度が
20 mg/mL のとき、

2 mL の尿に含まれる
尿素の質量は何 mgか?』

という問題に対しては、

20 mg/mL × 2 mL = 40 mg

と計算することが
出来ます。

他にも、

〇〇 mg/100mL

などの表記が見られることも
ありますが、

これは、

100 mLの溶液に
〇〇 mgの溶質が含まれますよ

という意味なのです。

例題

①尿中のナトリウムイオン濃度が
3.1 mg/mLのとき、
この尿10 mLに含まれる
ナトリウムイオンは何 mgか?

②血しょう中の尿素濃度が
1800 mg/100mLのとき、
血しょう30 mLに含まれる
尿素は何 mgか?

解答

①3.1 mg/mL × 10 mL = 31 mg

②1800 mg/100mL
= 18 mg/mL なので、

18 mg/mL × 30 mL
= 540 mg

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2-3. 質量パーセント濃度

質量パーセント濃度というのは、

溶質の質量を溶液の”質量”で割り、
100をかけることで
求められる濃度のことです。

単位は、%(パーセント)です(下図)。

質量パーセント濃度=(溶質の質量÷溶液の質量)×100

この公式は、

溶質の質量
= 溶液の質量 × 質量パーセント濃度 / 100

と変形でき、
腎臓の計算では
この形でよく使います。

例題

尿中の尿素濃度が2 %のとき、
この尿70 gに含まれる尿素は何 gか?

 

解答

尿素の質量(g)
= 尿の質量(g) × 尿の質量パーセント濃度 / 100

= 70 g × 2 / 100
= 1.4 g

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2-4. 密度

質量パーセント濃度は、
しばしば、密度(みつど)と共に
問題文に登場します。

密度は、以下の式で
表されます。

密度 = 質量 ÷ 体積

この式は、

質量 = 体積 × 密度

と書き換える
ことができ、
腎臓の計算問題では、

体積を質量に変換する

ために、よく利用します。

例題

尿中の尿素濃度が2 %のとき、
この尿80 mLに含まれる尿素は何 gか?
ただし、尿の密度は1 g/mL とする。

 

解答

2-3. 質量パーセント濃度
解説したように、

尿素の質量(g)
= 尿の”質量(g)” × 尿の質量パーセント濃度 / 100

である。

尿の密度を用いると、

尿の質量(g)
= 尿の体積 × 尿の密度
= 80 mL × 1 g/mL
= 80 g

となる。

よって、
尿素の質量(g)
= 尿の質量(g) × 尿の質量パーセント濃度 / 100

= 80 g × 2 / 100
= 1.6 g

と求まる。

・・・・・・・・・・・・

では、次の項目から
濃縮率の計算に入りましょう。

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3:濃縮率

3-1. この問題を解けるようになろう!

この項目を読み終えた時に、
次のような問題を自力で解ける
レベルを目指して行きましょう。

・・・・・・・・・・・・・・

サンプル問題1
ある人の、血しょう中と尿中の
尿素濃度(単位:%)が下表のようで
あるとする。
尿素の濃縮率を求めなさい。

血しょう中の濃度が0.03、尿中の濃度が2

サンプル問題2
ある人のイヌリン濃度(単位:mg/mL)が
下表のようであったとする。
イヌリンの濃縮率を求めなさい。

血しょう中の濃度が0.1、尿中の濃度が12.0

・・・・・・・・・・・・・・・

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3-2. 濃縮率の求め方

ある物質の尿中の濃度を
その物質の血しょう中の
濃度で割った値を、

その物質の

濃縮率(のうしゅくりつ)

と言います(下図)。

濃縮率

濃縮率は、

ある物質が、
血しょうから尿が作られる過程で

何倍に濃縮されたか

を表します。

このため濃縮率は、

〇〇倍

と表記される
ことがあります(※)。

※:倍をつけずに、
単に数値だけで表記して
問題ありません。

例として、尿素という
物質を取り上げて、

濃縮率の計算方法を、
解説しましょう。

ある人の
血しょう中の尿素濃度と
尿中の尿素濃度が、

・血しょう中:0.03%
・尿中:2.0%

だったとします。

この場合の
尿素の濃縮率は、

尿中の尿素濃度 ÷ 血しょう中の尿素濃度

= 2.0 %  ÷ 0.03 %

≒ 67 (倍)

となり、

血しょうから尿が作られる過程で、
尿素は、約67倍に濃縮された
ことがわかります。

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3-3. 体に必要な物質の濃縮率と老廃物の濃縮率

血しょう中に含まれる物質は、

・体に必要な物質
⇒ 水、ナトリウムイオンなど
・老廃物(ろうはいぶつ:体に不要な物質)
⇒ 尿素など

に分けられます(下図)。

血しょうの一部を拡大して、水色の正方形で描いてある。正方形の水色は水を示す。この正方形の中に、水以外の体に必要な物質が丸で5つ描かれ、老廃物が三角で5つ描かれている。

そして、腎臓は、
尿中に老廃物を高濃度につめ込んで
効率よく排出しているのです。

このことは、濃縮率の計算結果にも
表れています。

血しょうがろ過されて生じた
原尿の成分のうち、

体に必要な物質は
再吸収されやすく、

老廃物は
再吸収されにくい

という傾向があります。

このため、
濃縮率を比べてみると、

老廃物の濃縮率は、
体に必要な物質の濃縮率よりも

高くなる傾向がある

のです(下図)。

原尿が大きい四角、尿が小さい四角で描いてある。原尿の大きい四角内には、体に必要な物質が5つ、丸で描いてあり、このうち、4つが再吸収され、1つが、尿の小さい四角内に描かれている。次の図の、老廃物と比べ、尿中に残る個数が少なく、尿縮率が低い。

原尿が大きい四角、尿が小さい四角で描いてある。原尿の大きい四角内には、老廃物が5つ、三角で描いてあり、このうち、1つが再吸収され、4つが、尿の小さい四角内に描かれている。前の図の、体に必要な物質と比べ、尿中に残る個数が多く、尿縮率が高い。

例えば、

細胞の働きに欠かせない
ナトリウムイオンの濃縮率は、
1.2(倍※)くらいです。
※:体の状態で多少変動する

一方で、老廃物である
尿素の濃縮率は、

先ほど計算したように
67(倍)にもなるのです。

腎臓が、いかに効率よく
老廃物を排出しているかが
分かりますね。

・・・・・・・・・・・

さて、これで
濃縮率の解説は以上ですが、

自分の力で計算問題に
取り組んでみることで、解く力が
より一層、身についていきます。

次の項目の確認問題に
挑戦してみましょう。

※:スマホ、タブレット端末でのご利用の方へ
記事の最下部には、

「おすすめの人気記事ベスト5」
(【最重要】2021共通テスト『生物基礎』攻略法など)

の一覧も記載してあります。

4:確認問題

確認問題1

ある人の、
・カリウムイオン(細胞の働きに必要な物質)
・クレアチニン
・尿素

の濃度(単位:%)が、
下表のようであるとする。

カリウムイオンの血しょう中の濃度は0.02、尿中の濃度は0.15。クレアチニンの血しょう中の濃度は0.001、尿中の濃度は0.075。尿素の血しょう中の濃度は0.03、尿中の濃度は2。

①それぞれの物質の濃縮率を求めなさい。
(尿素は小数点以下を四捨五入)

②濃縮率で判断すると、クレアチニンは、
体に必要な物質と老廃物のどちらで
あると思われるか答えなさい。

 

解答

カリウムイオンの血しょう中の濃度は0.02、尿中の濃度は0.15。クレアチニンの血しょう中の濃度は0.001、尿中の濃度は0.075。尿素の血しょう中の濃度は0.03、尿中の濃度は2。

(単位:%)
①それぞれの物質の濃縮率を求めなさい。
(尿素は小数点以下を四捨五入)

カリウムイオンの濃縮率
 = 0.15 / 0.02 = 7.5(倍)
 クレアチニンの濃縮率
 = 0.075 / 0.001 = 75(倍)
 尿素の濃縮率
 = 2 / 0.03 ≒ 67(倍)

②濃縮率で判断すると、クレアチニンは、
体に必要な物質と老廃物のどちらで
あると思われるか答えなさい。

老廃物

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確認問題2
ある人のイヌリン濃度(単位:mg/mL)が
下表のようであったとする。

血しょう中の濃度が0.1、尿中の濃度が12.0

イヌリンの濃縮率を求めなさい。

 

解答

血しょう中の濃度が0.1、尿中の濃度が12.0

(単位:mg/mL)
イヌリンの濃縮率を求めなさい。

12.0 / 0.1 = 120(倍)

※イヌリンは、
次の記事のテーマである
原尿量の計算で用いられる物質。

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⇒ つづく記事
「腎臓④:イヌリンを用いた原尿量の求め方」
「腎臓⑤:再吸収量の計算、再吸収率の計算」
「腎臓⑥:グルコース排出量のグラフ