細胞内共生説:ミトコンドリアと葉緑体の起源
『この記事について』
この記事では、
・ミトコンドリアと葉緑体の起源に関する
有力な説である細胞内共生説
・細胞内共生説を支える3つの根拠
について解説します。
解説の中では、
記事「細胞」と「原核細胞と真核細胞」で
説明した用語が多く出てきます。
例えば、
・原核生物、真核生物
・細胞小器官
・核、ミトコンドリア、葉緑体
など。
もしも、あなたが、
これらの用語の記憶が
少しあやしいなと感じたなら、
この記事の最初の項目「用語の振り返り」
で用語の意味を確認してから、
細胞内共生説の解説に入るとよいでしょう。
用語の意味がわかるのであれば、
目次
1:用語の振り返り
1-1. 原核生物と真核生物、原核細胞と真核細胞
地球上の生物は、
細胞の構造の違いから、
・原核(げんかく)生物
・真核(しんかく)生物に
分けられます。
原核生物には、
細菌などが分類されており、
真核生物には、
植物や動物などが分類されています。
原核生物の体は
原核細胞で構成され、
真核生物の体は
真核細胞で構成されています(下図)。
原核細胞と真核細胞の
大きな違いは、
真核細胞の内部には、
原核細胞には見られない
複雑な形の構造物(細胞小器官という)
が見られることです。
原核細胞と真核細胞(例として動物細胞)の
内部を比べてみると、下図のようになります。
真核細胞に見られる細胞小器官のうち、
最も目立つものの1つは、
核
という細胞小器官です。
原核細胞は
核をもたない細胞として、
真核細胞は
核をもつ細胞として
定義されます(下図)。
1-2. ミトコンドリアと葉緑体
ここからは、細胞小器官である
ミトコンドリアと葉緑体について
確認しましょう。
ミトコンドリアは、
ほぼ全ての真核細胞に見られ、
細胞呼吸(呼吸)という働きに関与します(下図)。
細胞呼吸というのは、
酸素を利用して有機物を分解し、
細胞の活動に必要な
エネルギーを得る働きのことです。
一方で、
葉緑体は、
植物細胞などに見られ、
光合成を行います(下図)。
光合成は、
光エネルギーを利用して
二酸化炭素と水から有機物を
合成する働きのことです。
ミトコンドリアと葉緑体の働きについて
少し具体例を挙げましょう。
イネ(稲)の葉の細胞にある
葉緑体で光合成が行われ、
有機物が作られると、
その一部は
ミトコンドリアに取り込まれます。
そして、細胞呼吸に用いられることで、
イネの細胞が生きるための
エネルギーが得られるのです(下図)。
また、
光合成で生じた有機物は、
イネの実の細胞にも蓄えられます。
ヒトがイネの実(コメ)を
食べると、
コメに蓄えられていた有機物は、
ヒトの細胞内のミトコンドリアに
取り込まれます。
そして、
細胞呼吸に用いられることで、
ヒトの細胞が生きるための
エネルギーが得られるのです(下図)。
2:細胞内共生説
2-1. 私達の細胞内には、別の生物の痕跡らしきものがある。
ミトコンドリアと葉緑体は、
真核細胞の活動に欠かせない
存在になっています。
そのような
ミトコンドリアと葉緑体について、
今から数十年前に、
起源の研究が行われ、
驚くべき説が
発表されました。
今や真核細胞の一部分となっている
ミトコンドリアと葉緑体の起源。
それは、
はるか昔に、
地球上で悠々(ゆうゆう)と
生活していた
原核生物
であったと
考えられているのです。
そして、
ミトコンドリアと葉緑体には、
上記の考えの根拠となる、
原核生物としての痕跡らしき
特徴がみられるのです。。。
2-2. 細胞内共生説とは
細胞内に原核生物が共生することで、
ミトコンドリアや葉緑体などの
細胞小器官が生じたとする考えを、
細胞内共生説(さいぼうない きょうせいせつ)
※単に、共生説ともいう
といいます。
共生というのは、
異なる生物同士が常に密接な関係をもって
生活している現象のことです。
ヒトと腸内細菌の関係は、
身近な共生の例です。
ヒトの腸内は、
腸内細菌にとって
とても生きやすい場所です。
一方、
腸内細菌はヒトに対して、
腸からの栄養分の
吸収を促すなどの
働きをしています。
それでは、
細胞内共生説の内容を
より具体的に見ていきましょう。
2-3. 細胞内共生説の内容
今から何十億年も昔、まだ、
ミトコンドリアや葉緑体を持った細胞が
出現していなかった頃の地球には、
様々な原核生物が存在したと
考えられています。
そんな原核生物の1グループは、
好気性細菌(こうきせいさいきん)と
総称される細菌です。
好気性細菌というのは、
生活に酸素を必要とする原核生物のことで、
現在の地球上にもみられます。
好気性細菌は、
細胞呼吸(呼吸)を行う
ことが出来ます。
はるか昔の、ある時、
好気性細菌が別の細胞の中に
取り込まれて共生し始めた
と考えられています。
好気性細菌を
取り込んだ細胞が、
すでに核を持っていたのか
どうかは不明です(下図)。
そして、
長い年月を経て、
共生した好気性細菌が
ミトコンドリアに変化した
と考えられています。
この時は、すでに核をもつ
真核細胞であったと
されています(下図)。
ミトコンドリアをもつ
真核細胞が増えていくと、
今度は、
すでにミトコンドリアをもつ
真核細胞の中にシアノバクテリアが共生した
と考えられています(下図)。
シアノバクテリアというのは、
光合成を行う原核生物の総称です。
長い年月を経て、
共生したシアノバクテリアが
葉緑体に変化した
と考えられています(下図)。
以上が、
細胞内共生説による
ミトコンドリアと葉緑体の
起源の説明です。
このように
細胞内共生説では、
細胞内に
好気性細菌が共生して
ミトコンドリアの起源となり、
シアノバクテリアが共生して
葉緑体の起源となった
と考えているのです。
ミトコンドリアと葉緑体が
出現した後は、やがて、
ミトコンドリアを得た真核細胞は
現在に見られる動物細胞などに至り、
ミトコンドリアと葉緑体を得た真核細胞は、
現在に見られる植物細胞などに至ったと
考えられています(下図)。
細胞内の構造物が
生き物由来であるというのは、
とても大胆な考えですね。
そんな細胞内共生説は、
いくつもの根拠によって
支えられています。
最後に、
細胞内共生説の根拠を
3つ紹介しましょう。
2-4. 細胞内共生説を支える3つの根拠
ミトコンドリアと葉緑体が
原核生物に由来するという
細胞内共生説の根拠として、
以下のことが
挙げられます。
それは、
ミトコンドリアと葉緑体は、
・膜で囲まれる
・内部にDNAをもつ
・分裂によって増殖する
という特徴を持つ
ということです。
これらの特徴は、
原核生物にも共通してみられる特徴なのです。
原核生物には、
・細胞膜によって囲まれる
・細胞内にDNAをもつ
・分裂によって増殖し、子孫を残す
という特徴があるのです(下図)。
なお、
ミトコンドリアと葉緑体が
分裂して増殖できると言っても、
次から次へと
増えてしまうわけでは無く、
ある程度は、
真核細胞そのものによって
分裂が制御されています。
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さて、今回の解説は
これで以上です。
最後に、最重要ポイントを
確認問題としてまとめて
おきましょう。
3:確認問題
以下の空欄に適する語句を答えなさい。
細胞内に( ① )が共生することで、
ミトコンドリアや葉緑体などの
細胞小器官が生じたとする考えを、
( ② )説という。
この説では、
数十億年前の地球において、
ある細胞内に( ③ )細菌が共生して
ミトコンドリアの起源となり、
その後、
( ④ )が共生して
葉緑体の起源になったと
考えられている。
この説の根拠としては、
ミトコンドリアと葉緑体が
いずれも、
膜で囲まれ、
内部に( ⑤ )をもち、
( ⑥ )によって増殖する
という特徴をもつこと
などが挙げられる。
これらの特徴は、
原核生物に共通してみられる
特徴である。
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解答
細胞内に(①:原核生物)が共生することで、
ミトコンドリアや葉緑体などの
細胞小器官が生じたとする考えを、
(②:細胞内共生 )説という。
この説では、
数十億年前の地球において、
ある細胞内に(③:好気性)細菌が共生して
ミトコンドリアの起源となり、
その後、
(④:シアノバクテリア)が共生して
葉緑体の起源になったと
考えられている。
この説の根拠としては、
ミトコンドリアと葉緑体が
いずれも、
膜で囲まれ、
内部に(⑤:DNA)をもち、
(⑥:分裂)によって増殖する
という、
原核生物と共通の特徴をもつこと
などが挙げられる。
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